愛媛FCの粉飾決算と罰則 罰則そのものより信頼の喪失こそが深刻。粉飾は割に合いません。

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1月16日、JリーグDIVISION2に所属する愛媛FCは、過去の決算書に利益の水増しがあったことを公表しました。1人のファンとしては、「何をやってくれたんだ」という悔しさしかありませんが、会計の専門家としては、その原因と影響が気になる所です。

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原因は「担当者」ではなく、管理者が数字を確認しなかったこと

愛媛FCの会見では詳細が分からなかったのですが、この件についてはJリーグも見解を発表していて、そちらから事件の概要を把握することができます。
(『スポーツナビ』さんの記事に飛びます「愛媛FCの粉飾決算にJリーグ側が見解 第三者委員会を設置、さらなる原因追及へ」


愛媛FCがJリーグに行った報告を基に、概要を説明しておくと、平成24、25年度の決算書にそれぞれ約3,000万円、約6,000万円の利益が水増しされていました。


発覚した経緯は、今年の8月頃に現金の残高と帳簿の残高が合わなかったことをきっかけに、調査を行ったところ上述の粉飾に行き当たったとのこと。


粉飾を行った理由は、経理担当者が決算前に行う、役員への決算見込みの報告で、黒字見込みであることを伝えたものの、実態がそうではなかったために、事実を報告するのではなく、帳簿を黒字にすることでつじつま合わせをしたということでした。


愛媛FC側はあくまで経理担当者個人の責任という説明をしているようですが、隙だらけの説明に唖然とするしかありません。


現在の情報は愛媛の一方的な報告だけで、第三者を含めた調査は現在進行中です。ですので、愛媛の報告内容について推測で意見を述べることは避けますが、1つ確実に言えるのは、経理担当者ではなく、粉飾を見抜けなかった管理体制にこそ問題があると言うことです。


確かに粉飾は隠蔽工作を含めて行われた場合は、専門家でも発見は難しいです。ですので、粉飾を見抜けなかったことが、即、管理体制の不備ということにはなりません。


ところが、Jリーグの報告では粉飾の中身についても軽く触れていて、その方法は、極めて単純な、有り体に申し上げれば、「極めて幼稚な」方法だったようです。


Jリーグ側で会見を担当した大河正明コンプライアンスオフィサーの言葉を借りると「中にいればすぐに分かるレベル」。
重要な項目の明細を確認しさえすれば、異常が分かる程度のことです。


だからこそ、管理者が全くその責任を果たせていなかったと言わざるを得ませんし、その責任が問われても仕方ないと考えるのです。


具体的には、売上を帳簿に記録するときは、同時に、「その売上によって入ってくるお金」か「お金の根拠になる債権(売掛金)」を記録するのがルールなのですが、この売掛金に問題がありました。

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売掛金はいずれお金としてクラブに入ってくるものですが、決算書に記録されていた売掛金には、その年に入ってくるはずの、Jリーグからの分配金や日本サッカー協会からの補助が含まれていたのです。


しかも、その額3,000万円超。
これは、愛媛FCの総資産(約2億円)の約15%にあたるもので、決算書をチェックすると言うなら、絶対に見逃すことのできない項目です。


たとえば、ご家庭で奥様が出産される時には、自治体から出産育児一時金が支給されます。
出産時の費用を補ってもらうためのお金ですから、当然、出産時に支給してもらわなくては意味が無いわけです。


そうして出産に合わせて請求していた補助が、出産後、何週間も支給されなかったらどうでしょうか。
しかも、その額がご家庭の資産の15%にもなろうかという額に相当するなら、普通なら、相手に問い合わせるなり、ご自身の方で手続に不備がなかったかを確かめるなり、するのではないでしょうか。


それが愛媛FCの場合は何の確認もしないまま、「既に期限が過ぎている大きな金額が、まだ入ってきていません」と公表していたということです。


そしてさらに、残念なのは、この簡単な粉飾をしていた決算書は、監査法人の監査を受けて、「重大な誤りはない」との証明を受けていたという事実です。


「報告が事実とするなら」と仮定した上で申し上げますが、監査法人で監査を担当していた者として、今回のような粉飾が見抜けないというのは、ちょっと考えづらいです。


というのも、売掛金の監査では残高確認という手続があるのですが、その手続をしていれば、今回の粉飾は十分に見抜けたと考えられるからです。


残高確認は、会社の売掛金の金額が正しいかどうかを確かめるために、支払ってもらう会社に対して「この金額で間違いないですよね」と書面で問い合わせる手続です。


売掛金(債権)は、相手の買掛金(債務)になりますので、お互いに正しい処理をしていれば、金額が一致することになります。

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残高確認は、監査手続の中でも絶対に省略することはありませんので、手続自体は行っているはずです。
ですので、

スクリーンショット 2015 01 18 12 03 44


Jリーグからは、「そんな支払いうちにはないですよ」という回答が返ってきて、詳細を調査したと思われます。
通常なら、この調査の過程で誤りを発見できたはずですが、ひょっとするとここで、証憑の偽造などの不正があって発見できなかったのかもしれません。


どのような監査が行われたかにも興味がありますが、いずれにしろ、会計の専門家が2年連続で粉飾を見抜けなかったというのは、金額の問題を越えて、問題になるでしょう。

粉飾決算の罰則

粉飾決算は立派な法律違反です。
そのため罰則が設けられています。


東京証券取引所や東証マザーズなどの、株式市場に上場していれば金融証券取引法による重い罰則が科せられることになりますが、愛媛FCは上場企業ではない小さな会社で影響力は小さいので、会社法によるペナルティが科されることになります。


「粉飾決算」というと、「裏切り行為」や「詐欺」のようなイメージがあり、道義的な責任が問われそうですが、金融商品取引法から外れると、そのような責任は問われません。


あくまでも、粉飾された決算書を信じて取引したことにより、具体的な損害を被った場合に、その損害の額を賠償するというのが基本的な方向性です。


まず、会社自体の責任で言うと、たとえ、粉飾していたとしても、仕入れ先への支払いが滞ったり、銀行への返済ができなかったり、取引関係に影響がなければ、特に責任が問われるようなことはありません。


一方で、粉飾決算により会社が倒産してしまった時。会社を信頼して取引をしていた会社は、会社から取り立てることができません。その際に、会社法では損害額を取締役から取り立てることができるようになっています。
取締役は会社が倒産しても、私財を提供して会社の債務を支払う責任を負うのです。


また、粉飾決算で利益を水増しすることは、経営者や役員の経営手腕をよく見せようとすることになります。その結果、役員へ報酬を出したり利益がないのに配当を出したりして、会社の財産を流出させ、財務基盤を危うくすることにもつながります。


この点について会社法では罰則を設けていて、特別背任罪として、取締役に懲役または罰金を科すことになっています。


粉飾決算では大きくは、この取締役への損害賠償と特別背任が罰則として考えられます。

一番痛いのは罰則よりも信頼の喪失

上述したように、上場していない会社の粉飾決算による罰則は、取締役の責任が中心になります。


取締役にとっては大変かもしれませんが、自業自得の側面もあり、金額が大きくなければ、罰則による会社のダメージはそれほど大きくありません。


ですが、本当に痛いのは粉飾による信頼の低下です。


とくにフットボールクラブはスポンサーやファンからの信頼をベースにして成立している存在ですから、その基礎になる信頼を失うことは、クラブの消滅すら危ぶまれる深刻な事態です。


信頼はクラブ全体で築き上げて、守っていかなければ絶対に維持することはできません。
一度失った信頼を取り戻すことが、いかに大変かは、多くの言葉を尽くすこともないでしょう。


愛媛FCへの期待や信頼はこの一件でもろくも崩れ去ることになりました。
今後どうなるか分かりませんが、仮に再生のチャンスが与えられるならば、”情”に甘えるのではなく、”真実”や”事実”をベースに将来を展望できる方の手で、クラブを立て直すしか道はないでしょう。


望みは小さいかもしれませんが、可能性があるなら、真のプロフェッショナルなクラブとして生まれ変わってもらいたいと願っています。

まとめ

”真実””事実”が持つ力は本当に強いです。
粉飾が割に合わないのは間違いありません。
私も、事実から目をそらさないように肝に銘じたいと思います。

<おまけ>
Jリーグからは、クラブの降格などの制裁が検討されているようです。
クラブは、制裁は甘受するのは当然として、現所属選手が移籍などの条件で、不利にならないような配慮は、怠らないでもらいたいと思います。

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